第5章
雅人は、まるで引きちぎらんばかりに高級SUVのハンドルを握りしめている。隣に座る文人は、誰かをクビにする寸前のような顔つきで、まっすぐ前を見据えていた。後部座席では、恵理奈が携帯でひっきりなしにリダイヤルを繰り返す傍らで、美咲が鏡で化粧を直している。
「まだ繋がらないわ」恵理奈の声は張り詰めていた。「もう何時間も電源が切れたままよ」
美咲はコンパクトをパチンと閉じる。「だから言ったでしょ。きっと退屈だから失踪ごっこでもしてるのよ。今頃どこかで一人で楽しくやってるに決まってる。だからこういう女の躾って……」
「二十五年だ」文人は顎を動かしながら呟いた。「二十五年、我々があの娘のためにどれ...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
10. 第10章
縮小
拡大
